昔ながらの優しい味わい。大阪のてっぺんにある豆腐屋さん
堂本豆腐店創業は大正9年。120年余りもの間、大阪のてっぺん、能勢を見守り続ける昔ながらの豆腐店がある。今回は、堂本豆腐店の店主、堂本博之さんにお話しを伺った。
豆腐屋さんの朝は早い。昔は冷蔵庫が無く豆腐の長期保存ができなかったことから、朝早く開店することが豆腐屋の伝統だそう。堂本豆腐店にもそのなごりがあり、7時の開店に合わせ、毎朝4時から準備を始めるのだそうだ。それでも、休日ではお昼ごろに完売してしまうこともしばしば。
これは製品が職人の手により丁寧につくられているからこそ。そのひとつひとつが、熟練の技術によって丹念に仕上げられる。店主の方にお話を聞いている間も、お豆腐を求めてひっきりなしにお客さんがやってくる。なんでも、ここのお豆腐は祖父母や親時代から慣れ親しんできた馴染みの味。
「堂本さんの豆腐じゃないと!」とタッパーやペットボトルを持参して、豆腐や豆乳を買い求める。このやりとりだけで、堂本さんとお客さんの深い信頼関係が伺える。
ご自慢の木綿豆腐
商品は、木綿豆腐、厚揚げ、薄揚げ、おから、豆乳など、様々な種類がある。「季節によって、色んな食べ方があるから、とにかく一口食べてほしい。普通のお豆腐とは全然違う」と堂本さんは言う。
商品の楽しみ方もそれぞれ。夏は厚揚げ、秋や冬は、豆腐を鍋にするのがおすすめ。
厚揚げは、電子レンジで温めたり、焼いたりするのも◎
中でも一番のおすすめは木綿豆腐。
大豆、にがり、能勢の地下水というシンプルな素材からできた無着色無添加の優しい味わいで、保存料不使用であるために賞味期限は約2日。一丁450gと一見重たそうに見えるが、一瞬でぺろり。でも、一気に食べても胃が重たくならない、心にも体にも、実にヘルシーな一品。
昔ながらのものが、むしろ新しい。最近では、町外からも来店される方も増えたそうだ。
「近所のお客さんが多いけれども、土日は、若い人も最近はよく来てくれてとても嬉しい。うちは木綿豆腐一本でやっています。若い方が今まで木綿は食べたことがなかったけれども、ここの豆腐を食べて初めてその美味しさに感動した、と言っていただくこともありそれも嬉しいですね。」そう堂本さんは語る。
豆腐と堂本さん、その長い歴史
18歳のときに家業を継いで、豆腐作りの世界に入り、それ以来、豆腐作り一本。そんな堂本さんに仕事のやりがいを伺った。
「なんと言っても、お客さんに『美味しい!』と言ってもらうこと。そのときに、この仕事をやっていてよかったと思うし、生きがいのようなものを感じます」
そう語る堂本さんの腕には、昔から消えないという傷の後がある。
豆腐作りの際に負ったというその傷は、豆腐と、そして堂本豆腐店と人生を歩んできた堂本さんという人そのものの歴史なのかもしれない。
少しずつ変わりゆく能勢をみてきたから見える。能勢の暮らしで自慢したいところ
少しずつ変わりゆく能勢をみてきたから見えるで、店を構え続ける堂本豆腐店さん。能勢の暮らしで「ここは自慢したいところ!」と思うところを伺った。
「密な人付き合いと、豊かな自然。近所をちょっと散歩しただけでも、挨拶をしたり、会話がはずんだりする。こうした瞬間に、都会にはない人の温かみのようなものを感じますね。
たまに大阪の都会の方に出る機会があるんですが、能勢の方に帰ってくると、空気が美味しいのを実感します。冬場はたまに雪に積もって、大変だけど(笑)」
暮らすように旅をする
能勢町を1週間旅するとしたらどんな過ごし方がおすすめですか?
「とにかく、ゆったりとリラックスして過ごしてほしいです。能勢の食材を味わい、温泉に浸かってほしい。きれいな空気もふんだんに吸い込んで田舎の良さを体感してほしい。
能勢では美味しい食材が採れるし、たくさんの飲食店がある。確かに交通の便は悪くて、簡単に足を運ぶことが難しい地域かもしれないけれども、大阪にこんなにのどかで綺麗なところがあることを知ってほしいですね」
自然豊かな、大阪能勢の交差点の一角。昔ながらのお豆腐はいかがですか?ただし、ご来店はお早めに。
取材日:2024/06/26 文:西山明日香 写真:大池結香